飲食や販売の接客業。医師。看護師。教師。保育士。介護士。美容関係やインストラクター等々。
以上は、僕が思いつく限りの、人と直接的に関わる職種です。別の言い方をすれば、自分の技術や知識を提供する相手の顔が見えている分だけ、効果が判明しやすい仕事だと思います。
対して、人の顔が見えない仕事もこの世にはたくさんあります。たとえば製造関連は、使用者を想定して生産しても、ユーザーひとり一人の顔を見る機会は少ないかもしれません。
僕の原稿書きもまた、読み手の顔がわからない点で後者に属する仕事です。初めからそういうものと了解しているので、今さら悔やむことはありません。それに、常に人と接することで効果がすぐにわかる仕事は、臆病者の僕には務まらない気もしています。
いずれにせよ、あくまで僕の場合は、直接的な手応えを得られない仕事に精を出していると言っていいかもしれません。その件については深く考えないようにしています。もし意識してしまえば、オレはこの世界に何の効果も出せていないと落ち込みそうだから。
ただしベテランなので、負の感情を呼び込まない方策は習得済み。まずは、原稿書きを依頼してくれた当時者たちのために書くこと。そして、どこかにいるかもしれない読者の存在を信じること。強いて言えば孤独な作業ですが、たぶん性に合っているのでしょう。
それでもごく稀に、「読みました」「読んでいます」と言ってくれる方に出会えます。これは腰が抜けそうになるほど、照れ臭くてうれしい。言うまでもなく、この仕事を続けていく励みになります。一方でそれは、不確かだった読者の顔が見えた瞬間でもあって、こう書いたらあの人はどう思うだろう」といった意識の発芽につながったりもします。気にならないと言えば嘘になる。
しかし、そうした懸念が「これならどう?」といった意欲に発展するのは、何より僕が天邪鬼であり、原稿書きが誰にも見られないまま完遂できる仕事だから。ゆえに僕の真の性は、人に会えない孤独ではなく、人に会わない密室に合っているのでしょう。そんな告白はさておき、どんな場合も人とつながってこそ仕事と呼べるものになり、それぞれ得意分野があるという話でいかがでしょうか。

旬の柄。









