いささか劇的に言えば、1962年10月5日は英国発の二つの伝説が生まれた日です。一つは、ザ・ビートルズのメジャーデビュー。後に逸話だらけの世界的バンドになりますが、最初のシングルでもあれこれあったようです。
A面の『Love Me Do』の録音に当たっては3人のドラマーが起用されました。最初は、デビュー前の『クオリーメン』というバンドに参加していた、いわば古株のピート・ベスト。ところがプロデューサーのジョージ・マーティンは彼の演奏が不満で、ピートの代役で時折ドラムを叩いていたリンゴ・スターが起用されます、他の3人のメンバーの意向でもあったそうな。
それでも不安を覚えたプロデューサーは、最後にセッションミュージシャンのアンディ・ホワイトを招聘。結果、メジャーデビュー用のシングルは正式メンバーになるリンゴの録音を採用。ピートとアンディのバージョンも、以降に発売されたアルバムで使われました。で、ピートはどうなったかというと、最初の録音から2か月後に解雇されます。そりゃ遺恨を残しますよね。何しろザ・ビートルズになれなかった男としてその後の人生を生きることになってしまったのだから。
もう一つは、007の第1作『Dr.NO(邦題/007は殺しの番号)』の公開。つい先日、最新作の『No Time To Die』が日本でも上映され始めましたが、最初の作品が封切られた日には、後々25作も続くシリーズ作品になるとは誰も予想できなかったと思います。
僕はこのスパイアクション映画に関して、まったく詳しくありません。もちろん何本かは見た記憶があるし、劇中で使用されるクルマにも興味を覚えたけれど、特に理由もなくフィットしませんでした。あるいは、どんなピンチも乗り切る女ったらしのタフガイに1ミリたりとも共感できなかったのかもしれない。
さておき、ザ・ビートルズと007。安易に伝説と記しましたが、本質はまったく異なるでしょう。前者は生身。後者は不死身。生身の伝説は、それを紡ぎ始めた人間の死によって、如何ともしがたいピリオドが打たれる事実から逃れられない。不死身の伝説は、それがフィクションなら誰かが役名を名乗る限り更新を続けられる。
強引な比較を承知で言えば、僕は生身のほうが好きです。なぜなら、たとえば存命中のピート・ベストが59年前の今日を振り返ったときに抱く生臭い感情に興味が向かってしまう、それこそ生身の不完全な人間だからです。

まだ、ちょっと暑いよね。
